早いもので、カナダ移住から4ヶ月が経過した。
- トレジャーデータ株式会社を退職して Treasure Data (Canada) に入社しました
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英語圏なので大して苦労することもなく、目新しい経験は最初の1ヶ月間でだいたい終わった。
それ以降の生活は極めて普通(惰性)で、油断していたら途端にこころが反応しなくなって焦った。身体に力が入らず、なんとかベッドから抜け出したものの、日課のストレッチすらやる気にならなかったときは流石にヤバいと思った。あるいは、「最後に何かに“一生懸命”になったのはいつだっただろう?」そんなことをカナダ版Amazon Prime Videoで部活・恋愛・お仕事モノのアニメを観ながら思い、胸がえぐられるような感覚に陥る。
心理的な状況としては、ちょうど1年前に『貯金を取り崩しながら生きている感覚』を書いた頃に近いものがある。
ブレずにうまくやっているつもりでも、1日のおわりの疲労感や休日の待ち遠しさといった、ここ数ヶ月で顕在化した新たな感覚は無視できない。[...] 外的刺激が少ないせいで、最近は心身が過度に敏感になった。ほんの少しだけイラッとしたら、これを布団に入るまでずっと引きずっている自分がいる。たまには・・・とUber Eatsを利用していつもと違うものを食べると、翌朝の寝起きがひどく悪くなる。雨が降り、風が強く吹く。あれ、悪天候ってこんなに気分が沈むものだっけ。
「わかる・・・」と思いながら、次から次へと過去記事を読み漁る。「これは本当に自分が書いた文章なのか・・・?」と思うこともあって面白い。読み進めていくと、別に“一生懸命”になる必要なんかなくて、必要なのは今この瞬間をていねいに生きることなのだと再認識する。ギリギリのところで過去の自分に救われる、そんな感覚があった。
おかげで最近ようやく目の前の人やモノを慈しむ余裕が戻ってきて、山や自然を満喫したり、ベジタリアン・ビーガン食やノンアルコール飲料、デカフェコーヒーなどを通して飲食体験の幅を広げたり、できるだけローカルで生産されたモノを消費したり、コミュニティへの帰属意識を高めて積極的にご近所さんに声をかけたり「行きつけ」を作ったり、そんな日々を送っている。また、ナメられないように食事の量を増やして筋トレ強度を上げた結果、周囲から「なんかデカくなった?」とのフィードバックが得られて良い感じ。筋肉は裏切らない。
現在の個人的な関心は、世界が“ノーマル”に戻って街が再び観光客で溢れかえった時、自分が「地元民」として胸を張って生活を続けられるか、という点にある。4ヶ月間住んでみて、カナダ・バンクーバーへの永住は未だ「どちらでもいい」という域を出ない。この地との結びつきはまだまだ弱く、特に単身である自分にとって、定住する強い理由が無い。
日本に住んだことしかないのに手放しに「日本サイコー」と主張したり、「○○(訪れた国名・地名)は飯がマズい」「○○は人が親切」のように大きな主語で断定することはできない。ならば自分で納得がいくまで動き続けて、ひとつひとつ「経験として」証拠を積み上げていくほかない。
トレジャーデータ株式会社を退職して Treasure Data (Canada) に入社しました
暫定的な回答として、「日本サイコー」は変わっていない。このまま時間を積み重ねたら、ある日突然「カナダサイコー」になるのだろうか。
その他に定住を決意し得る要因としては、たとえばこっちでパートナーが見つかる、とか。正直なところ、その可能性を一切考えていないと言うと嘘になる。日本では「おひとり様サイコー」「死ぬときは死ぬ」と割り切って生きていたつもりだったが、自分の中に残っていた未来に対する漠然とした不安が移住後に顕在化したのは確かである。
コミュニティへの帰属意識も、単にその不安を解消したいだけなのかも。夜、暗くなった部屋で眼鏡を外していると、「このまま目の前が真っ暗になったら、誰にどう助けを求めれば良いのか」という不安にかられる。または、ふとした瞬間に「いま部屋で倒れたとして、誰にも気づかれないで死んでしまうのだろうな・・・」と考え、ひどく悲しい気持ちになる。だからこそ、人との繋がりを積極的に(あるいは本能的に)求めている自分がいて、その事実は大変興味深い。
閑話休題。
こんなふうに、過去の自分のことばに支えられて、今日もなんとか生きている。
ということは、今書いている文章は、未来の自分へのメッセージでもある。自分自身を相対化し、あるべき所へ立ち返ることができるように、あるいは着実に前に進んでいるのだということを実感するために。そんな気付きから、いい機会なので5年日記を書き始めた。
「これから先の5年間で、たった一つのことしかできないとしたら何をやる?」久しぶりに再読した『エッセンシャル思考』—これまた過去の自分に思い出させられたのだが—に書かれている問いを反芻しながら、今を見つめ直し、明日を考える。
"Atomic Habits" によると、ある行動や意識を習慣化・定着させるために重要なのは Outcome-based(結果ドリブン)ではなく Identity-based(アイデンティティ・ドリブン)になることだという。「タバコを吸わない」という一時の結果を原動力とするのではなくて、「自分は非喫煙者である」というアイデンティティの上にこそ長期的な行動変容が伴うのだと。ならば、先5年間の“習慣”を決定づける僕のアイデンティティとは何なのだろう。
そのための、過去・未来の自分との“対話”の場—ブログや日記に、一体それ以上の何を求めようか。「たかが移住」でブレないために、生産者(書き手)兼、消費者(読み手)としてアイデンティティの糸を紡いでゆこう。
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最終更新日: 2022-07-31
書いた人: たくち
Takuya Kitazawa(たくち)です。長野県出身、カナダ・バンクーバー在住のソフトウェアエンジニア。これまでB2B/B2Cの各領域で、Web技術・データサイエンス・機械学習のプロダクト化および顧客への導入支援・コンサルティング、そして関連分野の啓蒙活動に携わってきました。現在は主に北米(カナダ)、アジア(日本)、アフリカ(マラウイ)の個人および企業を対象にフリーランスとして活動中。詳しい経歴はレジュメ を参照ください。いろいろなまちを走って、時に自然と戯れながら、その時間その場所の「日常」を生きています。ご意見・ご感想およびお仕事のご相談は [email protected] まで。
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