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2021-06-19

「山」を通して考える持続可能性─Courseraの"Mountains 101"を受講して

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バンクーバーに移住してから4ヶ月弱。特筆すべきは、都市部の利便性を損なわずに自然に囲まれた生活を送ることのできる素晴らしさだろう。公園や遊歩道が多く、日々の散歩やランニングにさえ今までにない充実感を覚えるし、山でのアクティビティにも事欠かない。知り合う人がもれなく何らかのアウトドア趣味を持っているのも印象的で、コロナ禍で行動が制限された昨年の夏は、専門店で品薄が相次いだと友人が言っていた。

そんな折、カナダのUniversity of Albertaが開講しているオンラインコース Mountains 101、いわば「山入門(ヤマノススメ)」をCourseraで受講したのだが、これが殊の外素晴らしい内容だった。

コースは全12回で、山の地理的・歴史的な役割や山岳環境の特徴・仕組みなど、広範な話題がカバーされている。

  1. なぜ山の存在が重要なのか
    • 高度 (Altitude), 標高 (Elevation), 高さ (Height) の定義上の違いは勉強になった
  2. 山はどのようにして生まれるのか
  3. 山の気候の特徴
  4. 山岳環境下での身体機能
  5. 水源としての山の役割(雪、雨、氷河)
  6. 氷河の種類とその動き、役割
  7. 山が歴史的にどのように扱われてきたか
  8. 雪崩・土砂崩れ・噴火の仕組みとその予防
  9. 山岳植物の多様性とその特徴
    • 暖かさを保ち、太陽光を効率的に吸収できるような形に進化
  10. 山岳環境への動物の適応
    • 低酸素・低気温・高紫外線な山岳環境で生きるための適応的進化
    • 黒い表皮、より多くの体毛、大きな翼、冬眠など
  11. 山岳環境の保護と開発・利用のバランス
    • 例:カナダ某所・山間部の交通量の多い高速道路では、そこに生きる動物専用の立体交差をつくってモニタリングしている
  12. 山のこれから
    • 地球温暖化により、氷河のバランスが崩壊している
    • 山を人為的に焼いて、その地域の生物多様性をメンテナンスする取り組み

なんと最終回にはカナダのジャスティン・トルドー首相も登場する、よく作り込まれたボリューム満点のオンラインコースである。

「僕らはなぜ山に登るのか?」

今まで主にスポーツとして山歩きを楽しんできた身ではあるが、Mountains 101の受講を経て、環境保全・持続可能性にまつわる問題に「山」を通して向き合うことの重要性に気付かされた。Sustainable development for mountains—僕がこのコースから受けた最も強いメッセージはこれだ。

ちょうど昨年末ごろから、自然や地球環境、社会課題と向き合うことが自分の中でのテーマになっている。

「世界の富裕層の上位10%が地球上のCO2の半分を排出している」[...](先進国である)日本人の多くもこの上位10%に含まれている

今の世の中のシステム(資本主義)に期待できないのなら、他人任せにせず当事者として僕ら一人ひとりが能動的にアクションを起こす他ない。それは数十年後、数百年後の“何か”に転嫁できるような「他人事」であってはならないのだ。[...] 僕らが私財 (Private Riches) を肥やして“豊かな生活”を送っている一方で、水のような地球全体の公富 (Public Wealth) は着実に衰えていく。

「今年手放してよかったもの」

以後、日常的に実践していることといえば、肉の消費量を減らしたり、節水・節電をしたり、プラスチックでパッケージングされた商品や使い捨てアイテムを避けたり、リサイクル率を考慮した上で慎重に商品を選んだり、その国・地域で生産されたものを積極的に選んだり、地産地消を掲げるお店を「行きつけ」にしたり。しかしこれで満足してはいけない。

先進国で快適に暮らしている限り、僕らはどこまでいっても「なんちゃって課題解決」によって生じる矛盾を抱え続けることになる。良かれと思った行動の裏にも、どこか必ず環境負荷・社会問題を助長する因子が存在するのだ。

かといって、工業製品や近代的なインフラに依存せず原始的な生活に回帰するという考え方は筋が良いとは思えない。サステナビリティとキャピタリズム、あるいは保全と開発・発展—その両立をいかにして成し遂げるか。我々にはその問題について学び、考え続ける義務があるのだと思う。

Mountains 101の前後に受講した以下のオンラインコースでは、ある課題に対して「その場しのぎ」ではないシステム全体を作り変えるような取り組みを多く見た:

僕らの「当たり前」の生活の裏側で犠牲にしているモノについて知れば知るほど、自らの認識・行動の「正しさ」について考えさせられる。"A Journey of Sustainable Development" で書いたように、SDGsに対して自分に何ができるのかを考えることは重要な第一歩である。しかしそれが“ゴール”ではない。持続可能性にまつわる問題は相互に複雑に絡み合っており、「あちらを立てればこちらが立たず」な状態の上に今の世の中が成り立っている。

だからこそ、"Environmental Problems Through the Lens of Business" で述べたような、問題の捉え方・アプローチそれ自体を見直す営みが重要なのだ。

  • 自然は大切だから人の手を加えてはならない。
  • 都市生活は環境破壊を助長するから原始的に生きる。
  • 資本主義は悪であるから利潤追求をやめる。

確かに、数字によってのみ計られる成功・成長というものの虚しさに人類はいい加減気がつくべきである。しかし、だからといって、与えられた問題に対してこのような短絡的な判断を下すのはあまりにもお粗末である。現代に生きる者として、果たしてそれが本当に賢い選択なのだろうか。

たとえば "How to Avoid a Climate Disaster" の中で著者のビル・ゲイツは“安全な”原子力発電技術への投資の重要性について次のように語っている。

車は事故を起こす。危険だ。しかし我々はそれを理由に車に乗ることを止めたりはしない。対照的に、我々はテクノロジーを駆使して車をより安全な乗り物に進化させてきた。ならばなぜ、原子力発電は危険だからといって開発を止めてしまうのか。(意訳)

日本人として、この主張を理性的に受け止めるのは極めて困難である—そのような書評は My First Impression After Reading Bill Gates's "How to Avoid a Climate Disaster" に書いたので割愛するが、ここで重要なのは「原子力発電は危険」という一側面だけで判断して思考停止に陥らないということだ。

ある問いに対して、すぐに答えを出そうとしないこと。そして、日々の生活の中で「歩きながら」考え続けること。現代に生きる僕たちが未来に繋がる“持続可能”な世界を実現するためには、そんな「積極的だけれどもファジーでスローな視点」が重要なのではなかろうか。

話は戻って、「山」。都会でも地方でも、先進国でも途上国でも、この地球で僕らは常にどこかに山の気配を感じながら生活をしていて、当たり前のものとして山を“消費”してきた。

まずは改めて、その存在が僕らの生活にもたらしてくれているものの大きさを知ることだ。その上で、この雄大な存在から一個人として何を享受し、どのような“恩返し”をするのかを「歩きながら」考える—ここに持続可能性という大きな問題を「自分ごと」化する糸口があるような気がしている。

単身の今、このままカナダに永住する何か前向きな理由があるのだとすれば、それはこの地の自然を十二分に味わい、守ることに貢献するためだろうな、と思ったり思わなかったり。Mountains 101はそれほど強いメッセージ性のある、大変良いコンテンツであった。

なお、コース各回のおまけコンテンツ "Tech Tip" ではプロのガイドが山登りの基本を教えてくれて、完全にヤマノススメだった。

  • トレッキングシューズの選び方(サイジング)
  • レイヤリングの基本
  • パッキングの基本
  • 山行計画の立て方と地図読み
  • ハーネスやロープの重要性、滑落時の対応
  • 天候の変化や不測の事態に備えた荷物(防寒具や予備のギアの用意)
  • 雪崩対策
  • テント設置方法(ペグ打ち、シュラフ選び、パッキング)
  • 食事の基本(高カロリーで簡単に調理できて軽量なものが◎)
    • オートミールやフリーズドライの食事は低カロリーなので、バターやピーナッツバターを混ぜるとベター
    • 加えて、ハイドレーションや山の水の浄水について
  • 山での環境倫理
    • あらゆる行動に際して、山への影響を最小化することを心がける
    • 生き物を尊重、ゴミは持ち帰る、指定の山道を歩く、草花の生えていない硬い道の上をあるく、火に注意

山は良いぞ。

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  書いた人: たくち

たくちです。カナダ・バンクーバー在住のソフトウェアエンジニア。これまでB2B/B2Cの各領域で、データサイエンス・機械学習のプロダクト化および顧客への導入支援・コンサルティング、そして関連分野のエバンジェリズムに携わってきました。趣味は旅行、マラソン、登山、カフェ・ブリュワリー巡り。長野県出身。ブログへのご意見・ご感想など、@takuti または [email protected] までいつでもお気軽にご連絡ください。

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