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2024-01-31

人道的で倫理的な、持続的超えて永遠な『世界』─最貧国のひとつから望む“異世界”

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  この記事に関連する話題: デジタル・マラウイ:人道的かつ倫理的、そして持続的なテクノロジーのあり方

年末休暇、これまで約5か月間を過ごしているアフリカ・マラウイでのささやかな国内旅行の後、エチオピアの首都・アディスアベバへと飛んだ。世界経済の本流から隔絶されてしまったかのような貧困国での暮らし1を経てのフライトには、初めて海外に行った時のような独特の高揚感さえ覚えた。マラウイという国を物理的に離れ、『外』から見たときに何を思うのか—その点に、ずっと興味があったのだ。ようやく訪れたその機会に昂らずにはいられない。

しかし着陸直前、眼下に広がる煌々と輝く夜のアディスアベバの街を見た時点で、僕はふたつの土地を相対化して考えることを諦めた。違う。違いすぎる。このフライトの発着地が同一世界線上で地続きだなんて、とても信じられない。自分の環境適応力にはそれなりに自信があったし、マラウイに来てからもカルチャーショックらしいカルチャーショックは無かったと記憶している。それでもこうして空の上から俯瞰してみると、そこで見てきた景色や人々の生活がいかに“異質”であったかは一目瞭然だ。

add-landing ▲ 地上が明るすぎて衝動的に写真撮影を試みるも、失敗。

「ええ、ここは異世界なので」と説明された方が、まだ納得がいく。一方の都市が5年10年先を行っている、という程度の話ではないのだ。仮に各国政府・国際機関からの援助が続いたとして、僕の知る今のマラウイという国の未来に、このアフリカの政治的な中心地の光景を投影することはどうしてもできない。ならば、自分自身も携わっている一連の国際開発プロジェクトの意義はいったいどこにあるのだろうか?そのままアディスアベバで年を越し、何ひとつ変わらぬ元日の街の喧騒の中をあてもなく歩き回り2、その後アラブ首長国連邦の最大都市・ドバイ、そしてナイル川沿いにエジプト・カイロ、ルクソール、アスワンへと続いた旅程3を通して、そんなカルチャーショック由来の疎外感は日々強まるばかりであった。

隙間なく立ち並ぶビル群、レストランで提供される多彩な料理、サービスの質とスピード、公衆衛生のスタンダード、広く普及したインターネットインフラとモバイルサービスの展開、よく冷えた生ビール。振り返ると、それはまるで長い夢を見ていたかのような旅行体験であった4。Conor Grennanが著書 Little Princes: One Man's Promise to Bring Home the Lost Children of Nepal で語った、ネパールでのボランティアの後にニューヨークへ戻った際のリバースカルチャーショックを思い出す。当然、それぞれの国の内部でも格差は存在し、大都市に限った“目に見える特徴”に基づく過度な一般化は危険だ。それでも、せめて「マラウイの都市部もこのままいけばいずれ・・・」と、未来を具体的に思い描くことくらい許されても良さそうではないか。

beer ▲ 半年ぶりにタップから注がれたフレッシュなビールを飲んで、泣きそうになった。

第三国との相対化によって『外』に目指すべきゴールとその道程を見出せないのだとすれば、僕らはどのようにしてこの国の未来を創ってゆけるのだろうか?必要なのは、Conor Grennanが後に非営利組織Next Generation Nepalを立ち上げてネパールへ戻ったように、マラウイという国の現状・アイデンティティと正面から向き合い、絶対化することにあるのではないか。すなわち、アプローチの『コンテクスト化』だ。

たとえば、この国のコンピュータ・プログラミング教育にみたように、先進国の『ベストプラクティス』に沿った画一的なアプローチはまず機能しない。対照的に、マラウイのインターネットインフラ、マラウイの人々の暮らし、マラウイの経済に根差し、“エンドユーザ”(一般市民)目線でデザインされた施策が求められるはずだ。しかしながら、『マラウイ』が主語にならない、受動的でコピペのような中途半端な取り組みが散見されるのが実情である。これが途上国開発・国際協力をめぐるジレンマだ。

つい先日、そのようなマラウイの立ち位置・現状について、マラウイ人エンジニアたちが集うDiscordサーバ TechMalawi で議論する機会を得た。

個とシステムのあいだで、情報とインターネットをめぐる哲学・地理探究—その根底にあるのは、倫理的で、人道的で、持続可能な開発に対する僕の極めて個人的な“期待”だ。僕よりもはるかに現地のコンテクストに精通した人々が、いち部外者のそんな“わがまま”に耳を傾けてくれて、双方向で議論できたことは大変有意義であった。

目指したいのは、N=1のストーリーを尊重した、ボトムアップなアプローチだ。僕らプロダクト開発者にとって、そのような「僕らはなぜ、誰のためにプロダクトを作るのか」を問う姿勢はある種の『遅さ』(コスト)を必要とする。ゆえに極めて容易に、資本主義(効率性・スケーラビリティ・スピードの追求)との対立構造が描かれる。#TechMalawiでの議論でも、「言っていることはわかる。でもマラウイ人にとって、そんなふうに『善いこと』だけを選んでいる余裕はない。個々人あるいはビジネスの状況は常に切迫していて、まずは稼いで成長することが最優先なのだから」といった意見があった。実態はまさにその通りで、仮にスキルや学位があったとしても、「明日を生きるために稼がねばらぬ」ということで農作業に勤しむ・市場で農作物や魚、お菓子を売ることを優先する人々は多い。無策にがむしゃらにがんばっても、金銭的安定と成功が得られるとは限らないのだが。

ある問題に立ち向かうときに取りうる姿勢は、ファスト vs. スローの二項対立とは限らない。実際にはその中間に「ゆっくりいそぐ」という状態があり、これこそが僕が今年1年間を通して改めて考えたい『サステナブル・キャピタリズム』の根底にある思想である。マラウイという国にそのための土壌が存在しないわけではない。事実、国が推進している40年計画として "Malawi Vision 2063" が存在し、GlobalおよびRegional両方のコンテクストに沿った各種開発プロジェクトが絶えず計画・運用されている。その他、各分野への国外からの金銭的・物的・人的投資も決して少なくない。カギは、そのような機会をマラウイ人が『自分ごと化』し、参画してゆくことができるかにある。ただし現状はとても厳しく、この点について「マラウイ人はいつも闇雲に他国の真似事をして、グローバルなトレンドに追いつこうとするばかりである」という "follower性"(主体性の無さ)を指摘する人もいた。

lake-malawi ▲ マラウイ湖。いろいろな課題はあれど、“相対的にみて”僕はかなりこの国が好きらしい、と実感した年末年始でもあった。

結局のところ、僕らは自身の経験からしか世界を捉えることができない。したがって、人々の語る様々な『ストーリー』は常に、語り手にみえていない“ある視点”を構造的に欠いている。たとえば年末に読んだ、第二次世界大戦下で捕虜・奴隷として日本に囚われたアメリカ軍人のストーリー Unbroken: A World War II Story of Survival, Resilience, and Redemption は、日本で生まれ育ち、反対側の視点に慣れ親しんだ自分にとって大変興味深い読書体験をもたらしてくれた。つまり、『世界』という複雑なシステムの一般化に向けて、己の経験・視点のみを拠り所として物事を同じ土俵で議論しようとする営みには限界がある、ということだ。他方、僕らは環境特有の『コンテクスト』という、より絶対的な“何か”に否が応でも目を向けざるを得えない。そこにこそ、真に有意義で持続的な価値が生まれるはずなのだ—そう、僕は信じたい。

1. ある指標では、2024年現在最新のデータでもマラウイは未だ下から数えて10番目の豊かさであり、世界最貧国のひとつに数えられる。
2. 現地では未だエチオピア暦が広く用いられており、『新年』はグレゴリオ暦9月に相当する。ゆえに、元日だからと言って街中に特別な雰囲気は一切なかった。
3. ANAの特典航空券でエチオピア航空を利用。往路 (LLW-ADD-DXB) ビジネスクラスと復路 (CAI-ADD-LLW) エコノミークラスを合わせて計42,500マイル+20,600円。途中降機1回までの制限につき、DXB-CAIのみエミレーツ航空のエコノミークラスを別途購入、AED 1,270(約5万円)。
4. もちろん似ている部分も多く、地元の人々が集う市場の雰囲気や、サッカー観戦に対する熱量、アジア人として常に好奇の目にさらされていることによる居心地の悪さと、「チャイナ!」「ニーハオ!」と言われ無視し続ける“いつも通り”の光景には、安心感さえ覚えた。それでも「世界は繋がっている」とナイーブな感想を抱くには、あまりにも様々なギャップがありすぎた。
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最終更新日: 2024-01-31

  書いた人: たくち

たくちです。長野県出身、カナダ・バンクーバー在住のソフトウェアエンジニア。これまでB2B/B2Cの各領域で、Web技術・データサイエンス・機械学習のプロダクト化および顧客への導入支援・コンサルティング、そして関連分野のエバンジェリズムに携わってきました。現在はフリーランスとして活動を続けつつ、アフリカ・マラウイにて1年間の国際ボランティアに従事中。詳しい経歴はレジュメ を参照ください。いろいろなまちを走って、時に自然と戯れながら、その時間その場所の「日常」を生きています。ご意見・ご感想およびお仕事のご相談は [email protected] まで。

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