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2021-08-02

僕らはなぜ、誰のためにプロダクトを作るのか─行動変容デザインとその倫理的側面

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行動を変えるデザイン』を読んだ。「何らかの行動をユーザに自然と促すプロダクト」のデザインに焦点をあてており、心のはたらきや認知の特性を理解することから始めている点が、他のユーザ分析・プロダクトデザイン手法を説いた書籍と一線を画す。

思考停止で使える“単純なプロダクト”の意義

データよりもストーリーを、相関よりも因果を。』で見たように、認知科学や行動経済学はいかに僕ら人間の認知機能がテキトーなものかを教えてくれる。それはあまりにも怠惰で、僕らは日々の選択・行動をほぼ無意識かつ自動的に行っている。そしてデフォルトの選択肢や“なんとなく”良さそうな方を、そうと気づかぬまま安易に選んでしまう。

ユーザ(人間)とは、できるだけ負荷の小さい習慣や本能、経験則(認知的ショートカット)に基づいて行動する単純な生き物である。ならばプロダクトもそのレベルに合わせてデザインされるべき、というのは自然な発想だ。

  • 簡単そうで、
  • 親しみやすく、
  • 見た目がよく、
  • 直接的な利益があり、
  • とるべきアクションが明確かつ単純である。

生活の本質を変えるほどの行動変容を促す革新的プロダクトには、そんな過剰なまでの“分かりやすさ”が求められる。一度きりで完結するような Minimum Viable Action(MVA; ユーザが取るべき最低限の、超絶簡単なアクション)を元に、その後の(適応性のあるパーソナライズなどの)自動化によって行動変容をゼロストレスで達成させるのだ。

いかにして行動変容を促すか

行動変容デザインの実践という意味では "Hooked: How to Build Habit-Forming Products" や "Atomic Habits" が詳しい。先述の通り、ポイントは(1)ユーザがとるべき行動をどれだけ簡単にするか、そして(2)その動機づけをいかに行うかにある。

具体的には、プロダクト開発者が考慮すべきは次のプロセスによって形成される“習慣”のチカラだ:

  1. Internal Trigger:ユーザはどんな課題に直面したときに、何をしたいと望むのか?
  2. External Trigger:プロダクトはどのようにユーザを動機づけるのか?
  3. Action:ユーザが取るべき、かつ実行可能な最小限の行動 (MVA) はなにか?
  4. Viable Reward:ユーザが「もっと欲しい」と思い、彼ら彼女らをさらなる行動に駆り立てるような報酬はなにか?
  5. Investment:ユーザを縛り付け、離脱しづらくさせる要因はなにか?

特に「報酬」という考え方は、習慣的に利用される“中毒性”のあるプロダクトには欠かせない。いわく、脳内のドーパミンは報酬(=快と感じる結果)を受けたとったタイミングではなく、その到来を予期した瞬間から既に増加するのだという。

ゆえに、適切な報酬設計によって行動の結果を渇望させることができれば、あなたのプロダクトはユーザに求められ続ける。例えば、僕らが無意識的にメールやSNSをチェックするのは、その結果得られる未読ゼロや社会的承認といった「報酬」を予期し、渇望しているからに他ならない。僕らは皆、「気持ちよくなりたい」のである。

ただし、報酬は絶えず新しく、魅力的であり続けなければならない。特定の快楽に慣れて結果が予測可能になったとき、ユーザはその行動を止める。だからこそフィードバックループの構築は重要で、プロダクトは適応的に進化し続けなればならない。

もうひとつ、ユーザを惹き付けるために重要なのが Investment(投資)フェーズだ。プロダクトに対して少しでも時間・手間を投資させれば、ユーザはどんどん離脱しづらくなる。蓄積されたデータによってパーソナライズされたコンテンツの質は高まり、個人的な接点がプロダクトへの愛着を生む。

このように、習慣の科学を応用してキュー(行動に駆り立てる刺激、トリガー、文脈)や報酬を適切に組み込み、プロダクトに対して“小さな投資”をさせることで、行動変容デザインは達成される。通知(リマインダー)やゲーミフィケーションのような「行動変容デザインパターン」も世の中には多数存在し、大変心強い。

しかし、ちょっとまって欲しい。そもそもプロダクトはどのような行動をユーザに促すべきなのだろう?

僕らはなぜ、誰のためにプロダクトを作るのか

なによりも重要なのは、開発者のエゴによってユーザが“すべき”行動をさせるのではなく、ユーザが解決したい問題・成し遂げたいゴールの達成に向けた行動をさせることだ。だからこそ、僕たちは観察に基づくリアルなユーザ理解を重んじる。

リアリティの追求」が目的のひとつである

僕らに必要なのは、ドメイン知識・・・いや、ドメイン“経験”に他ならない。小売業界に向けてソリューションを提供するのであれば、製品の製造、流通、販売の流れを実際に目で見て体験するところから始める。金融、メディア、飲食・・・どれも同じ。まずは現場の実情を経験的に知らなければ、適切な問題設定とソリューション提案など出来るわけがない。

行動変容デザインは、我々のテキトーな認知機能の特性を逆手に取ってユーザを“コントロール”する手段である。ゆえに、誤った方向にユーザを誘導することも可能であり、その点 "Hooked" の終盤で紹介されている Manipulation Matrix に基づく倫理面での配慮は重要だ。

Manipulation Matrix—行動変容デザインを行うプロダクトとその開発者は、その特性に応じて次の4つのタイプに分類される。

開発者自身がユーザとしてプロダクトを使うか? NO YES
生活の向上に直接的に貢献 商人 ファシリテーター
生活の向上には寄与しない 悪徳業者 エンターテイナー
  • 悪徳業者:自分自身は絶対に使わないし、何のメリットもないようなプロダクト。それによってユーザの行動をコントロールすること、人はこれを「搾取」と呼ぶ。
  • 商人:自分を含まないターゲット層へのメリットを期待している場合、あなたはそのプロダクト(あるいは市場)に何らかのビジネスチャンスを見出したのだろう。それは素晴らしいが、ユーザが真に欲しい物や解決したい課題に対する理解はどうしても浅くなり、どこまでいっても「他人事」としての問題解決に留まってしまう。"Hooked" では「広告」をこのカテゴリの代表例として挙げている。
  • エンターテイナー:自分も喜んで使うプロダクトだが、実利があまりないもの。ゲームに代表されるエンタメ製品がこの部類であり、ビジネスとして成功するには様々な媒体(ソフトウェア、周辺機器、グッズ、関連コンテンツなど)で常に新しいものを提供し続けなければならないという過酷さがある。

"Reviewing Ethical Challenges in Recommender Systems" でも触れたが、高度なシステムの倫理的な側面を見つめ直す時がきている、と僕は思う。少なくとも自分は、悪意を持って搾取をするため、良かれと思って「どこかの誰か」に中途半端に手を差し伸べるため、あるいは本来持っていた純粋な気持ちを曲げてまでマネタイズするために技術を学び、行使しているのではない。

PMに関して言えば、「プロダクトと自分の間には、むしろ積極的に強固な繋がりを求めなければならない」というのが僕の仮説だ。「とにかく好き」「自分だからできる」「自分がやらねばならない」という情熱や使命感。それがあるからこそチームはPMを信頼し、確信を持って開発を進めることができ、顧客とのコミュニケーションが自然と促され、結果的に最高のプロダクトが生まれていくのではないか。プロダクトマネジメントは「クソどうでもいい仕事」か

というわけで、僕らが究極的に目指したいのはファシリテーターとしてのポジションだ。ひとりのユーザとして自らのニーズをプロダクトに反映し、行動変容デザインを先導する。そして行動変容が達成された暁には、自分を含む少なくない人々の生活がより良いものとなる。

最初は「無くても困らないようなプロダクト」でも構わない

書籍『行動を変えるデザイン』の後半は一般的なプロダクトデザインの方法論の焼き直し的な記述が多いが、プロダクトの成功基準を最初から明確にして、予め測定可能にすることの重要性は強調してもしすぎるということはない。筆者も述べているように、「がんばってプロダクトをつくっていると、価値判断の基準が歪む」。だからこそ、どこまでやれば「十分」なのか、客観的な成果を定義することは大変重要である。

その点、多腕バンディットアルゴリズムへの言及などによってデータドリブンの検証・フィードバックループの実装について述べている点はとても誠実であり評価できる。僕らの認知は”予想通りに不合理”ではあるが、やはりどこもまでいっても、現実とは究極的には予測不可能なものである。そんなとき、各書の事例集が示しているようにデータが語ってくれることはとても多い。Build, Measure, Learn を怠らないことだ。

「プロダクトはビタミン剤であるべきか、鎮痛剤であるべきか」"Hooked" で繰り返し参照されるこの例えは、プロダクトはビタミン剤(サプリメント)のような無くても困らない補助的な存在であっても構わないか、あるいはユーザの痛みを確実に消す存在であるべきかを問うている。

投資家的な模範解答は後者なのだが、ファシリテーターによって生み出される行動変容を促すプロダクトは往々にして、最初はビタミン剤的な立ち位置で登場する。Twitter, Instagram, FacebookなどのSNSも、少なくとも登場した当時は「なくてはならないモノ」では無かった。しかし時間が経ち、行動変容デザインによってそのプロダクトを使うことが習慣化すると、人々はそれがいかに実際に痛みを和らげてくれているのかを実感する。たとえばSNSは、蓋を開けてみると「承認欲」という人間の根源的な痛みに対する特効薬だった。

データの量だけ、イテレーションの数だけ、アクションの回数だけ、行動変容デザインはより強固なものになってゆく。最初から痛みの原因が分かっていることなど稀であり、したがってワンショットで特効薬など作れるはずもない。

自らの1日を見つめ直し、行動変容の種を探り、想定可能なゴールを設定し、恐れずに一歩を踏み出すこと。自分に効くビタミン剤、あるいはプラセボくらいなら、僕たちはきっと作ることができる。認知の特性を理解してさえいれば、だが。

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  書いた人: たくち

たくちです。カナダ・バンクーバー在住のソフトウェアエンジニア。これまでB2B/B2Cの各領域で、データサイエンス・機械学習のプロダクト化および顧客への導入支援・コンサルティング、そして関連分野のエバンジェリズムに携わってきました。趣味は旅行、マラソン、登山。コーヒーとお酒とハンバーガーが好き。長野県出身。ブログへのご意見・ご感想など、@takuti または [email protected] までいつでもお気軽にご連絡ください。

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