―と思いました。
MIT卒のコンピュータ科学者によって書かれた本『Deep Work: 大事なことに集中する』を読んだ。が、冗長かつ抽象的な内容で、非常に退屈な一冊だった。
主張
「集中して長時間、中断することなく知的作業を続けること (Deep Work) が生産性を高め、大きな仕事を成し遂げることにつながる」ということを言っている。構成としては、成功者たちの実例を示して主張に説得力を持たせた上で、実践にあたってのTips的な部分を延々と述べている。ざっくりまとめると次のような感じ。
- 『何かを作り出さなければ、成功しない』
- 自分のスキルは作り出した成果物で示せ
- 生産性を高めるためには『難しいが重要な知的作業をまとめて、長期間、中断することなくつづけること』が大切
- 『成果=時間×集中度』であり、注意を集中する能力=価値あることを成し遂げるスキル
- 以上が Deep Work(ディープワーク) の基本
- 例
- SNSはやっていないし、メールの返事もほぼ返ってこないようなDeep Workerの教授は論文を1年で16本発表した
- 成績のいい学生にアンケートをとると、勉強時間は他の学生たちより少なかった
- ディープワークの逆に Shallow Work(シャローワーク) がある
- が、「ディープワークじゃない=シャローワーク」ではない
- シャローワークは価値が低く、反復可能なもの
- 注意があちこちに移り変わるせわしない時間でも、価値があり、実り多い場合もある(特に企業のCEOなど)
- Deep/Shallowの線引は難しい
- 生産的で価値がある、という状態を明確な指標で測ることが大切
- さもないと『多忙に見える』だけの状態が続いて危険
- 指標は最も重要な、高レベルなものを設定
- 「年に論文6本」とか「売上高100万ドル」とか
- ディープワークの実践
- やり方の一例:予め決めた一定時間だけディープワークに打ち込んで、残りは他のすべてのための時間にする
- ディープワークの単位は1日未満〜年単位まで自由に設定してよい
- ポイント
- ディープワークに費やした時間を見える化する
- ディープワーク時間の終わりを明確に定めて、ダラダラと作業を続けない
- 仕事のことはきっぱりと頭から追い出す
- シャットダウンの儀式(未完成の仕事や目標、プロジェクトを見直す時間)を設けると良い
- オフラインになる
- iPhoneの電源切ったり
- どうしてもググりたい、行き詰まるタイミングはあるけど…
- できれば別のオフライン作業を行う
- 安易にオンラインに帰って来ないこと
- 日頃から集中力の訓練をするといい
- 行列に並んでいるときなど、すぐにスマホを見ないで、あえて『退屈』な状態で自分の思考と向き合う
- 生産的な瞑想ができるといい
- 歩きながら、シャワーを浴びながら、いま直面している問題について思考する
- SNSは集中力を遮る最悪な存在
- マイナスの影響を上回る、十分なプラスの影響があると判断したツールのみ使う
- 仕事外の時間はよく考えて使うべき
- 夜間や週末の時間の使い方を予めスケジューリングする
- 気を散らすもの(娯楽サイト)に抗う
- シャローワークを減らすために
- 分刻みで1日の予定をたてて、惰性な日々に終止符を
- 一定時刻以上働かないという確固たる目標を定めて、逆算して働く
- メールは返信しなくていい
雑感
言っていることはどれも同意できるけど、具体性に乏しいので、読者は一時的に意識が高まるだけでそのうち元に戻るオチが見える。また、これらはいずれもどこかで読んだことのあるような内容で、日頃こういった話題に敏感な人にとっては目新しさがない。
Deep Workとその逆、Shallow Workの境界は依然として微妙で、紹介されている“見分け方”が容易に実践できるものとは思えない点も残念。
さらに、Deep Workに打ち込む期間はケースバイケースだと言っていて、アクションプランの設計は読者に委ねている点。これは一歩間違えると危険で、“勘違い系Deep Worker” を生み出す可能性がある。たとえば締め切り直前の追い込み型になってしまったり、短期間の極度の集中のあとで燃え尽きてしまったり。
個人的に、こういう類の本は真に読者の血肉になるかという視点で、
- いかに主張がシンプルかつ明確か
- そのテクニックは即、容易に実践可能か
この2つが特に大切だと思う。その点、もっと他に良い本があるのになぁ、というのが素直な感想。
Deep Workをするなら毎日継続するべき
たとえば『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか』(How to Write a Lot) の主張はもっとシンプルで、毎日書き続ける(=一定時間の知的作業を“毎日”継続する)というもの。作業に充てる時間は最重要なスケジュールの1つと捉えて、何が何でも死守せねばならない。そして、作業中は他のすべてをシャットアウトしてそれに集中すること。
これはまさにDeep Workで、ただし、一定時間の集中を 毎日続けること にこだわっている点が異なる。この本の良いところはこの 消極的に、それでも着実に書き続けるという姿勢 にある。
その時の調子や気分に左右されるDeep Workerに価値はない、というのが持論。追い込み型は論外だし、やるべきことが早く終わったからといって余剰時間を浪費するのも愚かしい。目先の結果はどうであれ、コンスタントに小さな一歩を積み重ねた人のほうが、長い目で見たときにずっと遠くへ行くことができる(cf. 『勝ち続ける意志力』)。
「DeepかShallowか」よりも「本質的か否か」を見極めるべき
なにがDeep Workで、なにがShallow Workなのかを判断するためにその都度立ち止まる必要があるのか?という疑問。Deep Work本で紹介されている判断基準は、中途半端に一般化にしようとしたが故に実践し難いものになっている気がする。
そこに解を与えるのが『エッセンシャル思考』だと思った。
エッセンシャル思考は物事を “やる” か “やらない” かの判断を「絶対やりたい!」か「やりたくない」かの二択で行い、前者だけに全力を注ぐべし、という考え方。全力を注ぐ=Deep Workである。
Deep Work本のタイトル『大事なことに集中する』の 大事なこと とは何なのか。Deepであれば大事なのか?という問いが重要だと考えていて、深度とかクッソどうでもいいから「絶対やりたい!」といえることに集中すればいいじゃん、という気持ち。
行きたくない飲み会とか、やりたくない仕事とか、これらを断固拒否して自分にとって本質的なことだけに集中する。そのためには「ノー」と言えるスキルが大切。―『エッセンシャル思考』は明快な記述で、いかに日頃の僕らがしょうもないことに振り回されているかを教えてくれる。
まとめ
というわけで個人的な気持ちは標題の通りです。
もともと追い込み型で中途半端に時間を使っていた自分にとって『How to Write a Lot』と『エッセンシャル思考』が与えた影響は大きくて、直近1年間は午前中の3時間程度をなんとしてでも死守して「絶対やりたい!」と思えることに時間を費やしてきたつもり。
微妙だったといいつつ、そんな1年間を振り返って時間の使い方を見つめ直すきっかけになったので、Deep Work本を読んだ価値もあった気がする。
あえて「べき」論で語っていますが、この記事には自戒の念も込められており、まぁ最終的にはひとそれぞれなので、はい。
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書いた人: たくち
Takuya Kitazawa(たくち)です。長野県出身、カナダ・バンクーバー在住のソフトウェアエンジニア。これまでB2B/B2Cの各領域で、Web技術・データサイエンス・機械学習のプロダクト化および顧客への導入支援・コンサルティング、そして関連分野の啓蒙活動に携わってきました。現在は主に北米(カナダ)、アジア(日本)、アフリカ(マラウイ)の個人および企業を対象にフリーランスとして活動中。詳しい経歴はレジュメ を参照ください。いろいろなまちを走って、時に自然と戯れながら、その時間その場所の「日常」を生きています。ご意見・ご感想およびお仕事のご相談は [email protected] まで。
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