旅を繰り返し、自分だけの地図を塗りつぶしていく感覚。実績解除の瞬間はいつも気持ちがいい。
と同時に、「初めて」その地を踏む瞬間の興奮は一生に一度限りのものであり、その対象が着々と減っていくのはどこか寂しい気もする。
だから、僕は旅先ではあえて「次また来る理由」を残すようにしている。
いわゆる観光名所を全部は回らない。いきたいレストランのうち1つは諦める。スコットランドに来て一晩しか無いからと言って、パブをはしごしてリアルエール、スコッチウイスキー、ジン、ブリュードッグを飲みつくそうとしない。
しかし昨今の状況で世界は大きく変わった、はずである。繰り返し訪れたあの国のあの場所も、次に行くときには良くも悪くも全く違った体験をもたらしてくれるだろう。
これまで塗りつぶしてきた地図は思い出の品となり、まっさらな地図を手に入れたと言っても過言ではない。
どこへ行っても以前の常識や経験は当てにならず、今やそれを確かめるべく「また行く理由」
これは世界地図に限った話ではなくて、日本地図上のかつて訪れたあの県のあの街だって同じだ。近所での飲食体験さえ、わずか3ヶ月でガラッと変わってしまったのだ。何ヶ月、何年も前の経験を持ち出して知ったような口をきけるはずもなく。
さらばこれまでの経県値。今、自分は新たな地図を手に入れた。どうやってこれを塗っていこうか・・・そう考えると、なんだかとても身軽になった気がする。
こうして連日の暗いニュースの中にポジティブな面を見出し、少しだけ軽くなったこころの赴くままに引っ越しを検討し始めたのがここ数週間の話。
正直、東京は好きじゃない。
自分が何者であろうとなかろうと、ありのままの自分を受け入れてくれて否定も肯定もされない。そのドライな感じが心地よすぎて、逆に不安になる。
その先にあるのは希薄な人間関係。誰も自分のことなんか見ていないのだけれど、同時に自分よりも優れた(ように見える)他者を意識せざるを得ない環境がそこにはある。「サピエンス全史」で語られるように幸福と言うものが相対的に定義されるものであるのなら、東京ほど過酷な場所はないと思う。
だからだろうか。ふつうに生活をしているだけなのに、時折ふとした瞬間に物凄く哀しい気持ちになる。
知らなきゃよかった。この業界にいなければ東京に住もうなどとは考えなかっただろうに。しかし知ってしまった以上、そこから目を背けることはできない。世界は広い。上には上がいる。自分は無力である。だからこそ、幸せになりたいのなら無力ながらに一段一段、階段を登り続けるほかない。
一方で、これから先、知らなくてもいいことを知らずに済むようにする努力はできる。究極的には、自分の地図の形を定義するのは自分自身である。
そんなわけで以前から「オリンピックまでに東京を出る」と周囲に公言し、いろいろと根回しをしていたのだが、まさかのオリンピック延期である。振り出しに戻ってしまったが、これはむしろ好機。目の前にはまっさらな地図。そもそも僕は人混みが大嫌いなのだ、この状況下で東京に居続ける理由などどこにあるというのか。勤務先は当分リモートワークが続きそうだし、そうと決まれば気を取り直して新幹線・特急通勤圏内で部屋探しだ1。
探し始めたその日のうちに静岡県三島市に候補を絞り、内見の予約を取り付けた。東京から新幹線で40分。自然には困らないし、何より静岡はクラフトビール天国である。伊豆・熱海・三島・御殿場・沼津と、数えてみたら直近1年間だけでも5回くらい静岡県の東側に行っている。縁があるに違いない。
まぁ結局、決め手にかけたため申し込みには至らなかったのだが。
「東京じゃなくても、三島でいいじゃないか」と「東京じゃなくて、三島がいいんだ」。
結局、この違いなのだと思う。いまの自分は前者だった。それだけ。
「東京
金銭的なアドバンテージがほぼ無いのも理由のひとつ。三島で一人暮らしなら駅近物件で5〜6万円くらいが相場。しかし今の東京の住まいも月7万5千円なので、30万前後の引越し費用を考えれば、東京でいいじゃん、となってしまう。荷造りや手続きの手間を考えるとなおさらだ。
ここ
「ここでいい」同士の比較だと、悔しいけれどやっぱり東京は強い。これは都外で真面目に物件を探してみて初めて気がついた点である。自分の中に、まだ東京を選ぶ理由があっただなんて。
昨今の状況を受けて地方移住を考えている人が急増している、とラジオで言っていた。気持ちはわかる。そんなみなさまには、実際に引っ越すかは別として、ぜひ今すぐに部屋探しをはじめることをおすすめしたい。思い立ったが吉日、である。
今の賃貸の契約満了まであと3ヶ月。契約更新の意思はないので、そこまでに次を見つける必要がある。さて、どこに行こう?目の前に置かれた世界地図と日本地図は、まだまっさらなままだ。
1. 「新幹線や特急に乗って超遠方から通勤して来るヤフー社員に聞いた、地方暮らしと仕事を両立させる秘訣とは?」がいいインタビュー記事だった。 ↩
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最終更新日: 2022-01-18
書いた人: たくち
Takuya Kitazawa(たくち)です。長野県出身、カナダ・バンクーバー在住のソフトウェアエンジニア。これまでB2B/B2Cの各領域で、Web技術・データサイエンス・機械学習のプロダクト化および顧客への導入支援・コンサルティング、そして関連分野の啓蒙活動に携わってきました。現在は主に北米(カナダ)、アジア(日本)、アフリカ(マラウイ)の個人および企業を対象にフリーランスとして活動中。詳しい経歴はレジュメ を参照ください。いろいろなまちを走って、時に自然と戯れながら、その時間その場所の「日常」を生きています。ご意見・ご感想およびお仕事のご相談は [email protected] まで。
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