サイエンスライターの吉成真由美さんが2010年4月から1年強の期間をかけて行った、6人の『世界の頭脳』に対するインタビューをまとめた一冊。
超有名なあの人の最新の興味・考え方に触れられるのはもちろん、インタビュー形式なので人間性も読み取れて面白かったです。
面白かったのは、6人全員が無宗教であるということと、多くがSF小説を好んでいるということ。食わず嫌いのSFを読んでみようかな・・・。
ジャレド・ダイアモンド
あの名著「銃・病原菌・鉄」を執筆された進化生物学者。(僕も数カ月前に買ったけどなんかしっくりこなくて上巻すら読み終わっていません、ごめんなさい)
インタビューの中にあった、インターネット経由で得られる情報は実際に人に会って得られる情報にはとても敵わないという話。彼の子どもは13歳までに南極を除く全ての大陸を訪れたという部分が印象的。
ふと高城剛さんを思い出したりもした。『百聞は一見に如かず』を実践する一生を送りたいものですね。
92歳まで患者を診ていた父や100歳まで本・論文の執筆を続けた友人の話なんかも出てきて、全体として生き方について考えさせられる内容だった気がする。
ノーム・チョムスキー
個人的には文法の人以上のイメージがなかったのだけど、今回の話題の中心は政治批評。そういった一面があるのは知らなかった。
まるで彼から直接圧が伝わってくるようで、一歩引いて読みたくなってしまうほどの勢いでした。イメージがガラッと変わってしまった。
彼はかつて「偽善者とは自分に課す基準と他人に課す基準が違う人のことだ」とコメントしたことがあるらしく、これがとにかく印象的。しばらく頭から離れなかった。
オリバー・サックス
名前だけは聞いたことがあったけど、著書を読んだことはありません。最近脳に対する興味が湧いてきたので、いずれ読みたいと思っているところ。
インタビューでは、「ある個人」の物語であることが特徴的な彼の著書を引用しつつ、脳や1人ひとりに生じる能力差、遺伝子のことなどについて語っています。多くの「ある個人」を実際に見てきた経験と、学問という視点でのエビデンスに裏打ちされたこれらのお話はどれも新鮮でもっと深く知りたくなってしまいます。
インターネットが脳に与える影響というお話で、ゆっくりさの重要性を説いているところが僕は特に印象的。
人の良さが文面からでも十分に伝わってきました。
マービン・ミンスキー
人工知能といえばこの人。ここを読みたいがためだけにこの本を買ったと言っても過言ではない。
簡単に要約をすると、
「3.11のあのとき、福島第一原発に適切なロボットを送り込むことができなかった。チェスが強くなって、クイズが強くなって、将棋が強くなって、動物っぽく動くかわいいロボットの開発に力を入れて・・・人工知能研究はこの30年間一体なにをやっていたんだ。」
こんな感じ。
チェスに勝ててもドアを開けることすらできない。子どもにだってできて当たり前のことほど、ロボットにはできない。人間が容易にできることは研究対象とされず、多くの人が取り組んでいる分野こそが重要なんだと考えてしまう。
その結果として生まれたのはただの集合知能であり、集合知能の最たる例であるインターネットなどもはやそれほど役に立つものではないのではないか。
・・・とまぁそんなような内容で、ひとつひとつの話がガツンガツンと頭に入ってくる感覚がありました。
これが読みたかった!と言わんばかりのインタビュー内容で、何回でも読み返したくなるものでした。
余談ですが、この本を読んだ直後に某大学の某教授と一対一でお話をさせていただく機会がありました。そこでその先生が「今多くの人が言っている『人工知能』というものは、突き詰めればどれもエキスパートシステムを作っているにすぎないんだよ。大切なのはもっと人間の本質的なところにあると思うんだ。」とおっしゃっていたのがこのミンスキー先生の話と重なって、なんだかすごく感動しました。
トム・レイトン
アカマイ・テクノロジーズ社を設立したMITの数学教授。
数学を武器に起業して、今やそれがインターネットを影で支える大きな大きな存在になっているわけです。すごい。
彼、そしてアカマイ・テクノロジーズ社の歴史を追うようなインタビュー内容で、特に「ここ!」という部分はありませんでした。ただ、大学シーズからの起業が大きな価値を生み出すということは確からしい。
大学は研究で新しい理論・技術を作り上げていきます。本当の意味で世の中が変わるかどうかは、この研究成果をいかに現実世界に持ち込むかというところにかかっているんだろうなぁと、アカマイ社の話を聞いて思うわけです。
ジェームズ・ワトソン
DNAの二重らせん構造をの発見でノーベル生理学・医学賞を受賞された方ですね。
- 協調するよりも競争していたほうが良い。
- 今の若い人たちは自分の領域の外に出て学ぶことをしないから、大学院がテクニシャンを育成するだけの場になっている。
- 私はEメールを使わない。
- よく考え、よく読み、よく知っていたことが成功につながった。
といった研究に向かう姿勢がどれも素晴らしすぎて写経したいくらい。
それらすべてが読み手の胸に突き刺さってハッとさせられるようなもので、最後を締めくくるインタビューにふさわしいものだと感じました。
それなのに、途中ユーモラスな一面にクスリとさせられたりもする。すごいなこの人。
というわけで以上、「知の逆転」を読んでの感想でした。
とにかく刺激的すぎる一冊だったから、貼った付箋の量がいつも以上に多いや。
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最終更新日: 2022-01-18
書いた人: たくち
Takuya Kitazawa(たくち)です。長野県出身、カナダ・バンクーバー在住のソフトウェアエンジニア。これまでB2B/B2Cの各領域で、Web技術・データサイエンス・機械学習のプロダクト化および顧客への導入支援・コンサルティング、そして関連分野の啓蒙活動に携わってきました。現在は主に北米(カナダ)、アジア(日本)、アフリカ(マラウイ)の個人および企業を対象にフリーランスとして活動中。詳しい経歴はレジュメ を参照ください。いろいろなまちを走って、時に自然と戯れながら、その時間その場所の「日常」を生きています。ご意見・ご感想およびお仕事のご相談は [email protected] まで。
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